日経平均は対米関税交渉決着のニュースをきっかけに弾みがついた展開となり、一時は史上最高値更新が視野に入る水準まで上昇しました。7月から「音楽が鳴っているうちはダンスを楽しむべきだが、宴の終わりには後始末が待っている」とも指摘していましたが、まだ「音楽は鳴っている」ということなのでしょう。実際、与党敗北となった参院選の結果を受けて、今後は積極財政政策の取り込みや円安などに繋がる政治体制の枠組み変更の可能性も出てきました。これらはむしろ期待値の高まりに繋がるものとも考えます。足元では景気の不透明感は強く、企業の第1四半期決算も期待を超えるものではない状況です。これから相次ぐ第1四半期決算では、慎重な見方が多く示されるのではないでしょうか。しかし、これらはすでに予想されていたことであり、ある程度は悪材料として株価に織り込まれてきているのではないか、とも受け止めます。むしろ株式市場は、さらにその先を見始めている感があります。8月1日に発表された米雇用統計悪化は懸念材料ですが、株式市場も狼狽売りが続くことはなく、むしろ腰の強さを見せたと受け止めています。宴の後始末への準備を怠るべきではありませんが、そのタイミングはまだ先という見方を継続したいところです。## 猛暑、AI、データセンター、電力消費は増加の一途さて、今回は「電力の送電関連」をテーマに取り上げてみましょう。2025年の夏も暑い日々が続いています。先日は兵庫県で国内観測史上最高となる摂氏41.2度が記録されるなど、まさに「殺人的な暑さ」と言えるでしょう。命の危険を回避すべく、日中は家庭でもオフィスでも冷房が欠かせなくなっています。しかし、それによって電力消費がさらに増加し、それに対応するための発電増がさらに温室効果ガスの排出増に繋がる、という悪循環にどんどん入っていっているようにも思えてしまいます。猛暑の原因を温室効果ガスのみと決めつけるのは早計ですが、一因であろうことは衆目の一致するところでしょう。加えて、データセンターの相次ぐ建設やAIオペレーションの増加など、使用電力を飛躍的に増加させる要因には事欠きません。この悪循環を断ち切るため、温室効果ガス排出増に繋がる発電の増強を回避抑制しながら電力供給を引上げる、という「夢のような方法」が遠からず株式市場で注目されると予想します。まだそこまで議論は盛り上がっていませんが、だからこそ、今のうちに関連銘柄には注目しておきたいと考えました。## 送電ロスの削減は三方良しの解決策では、そもそもそんな「夢のような方法」はあるのでしょうか。実はあるのです。ご存知の方も多いと思いますが、電力は発電所で作られた後、家庭や工場などの最終消費地まで送電される過程で、電気抵抗の結果、少なからぬ電力が失われています。この送電ロス率は現在5%程度と試算されていますが、このロス率を引き下げることができれば、発電量を変えることなく、家庭や工場で使える電力が増えるという理想的な状況が実現します。なお、5%のロス率はわずかのように見えるかもしれませんが、失われている電力は年間約458億キロワットもあり、これはおよそ国内世帯数の10~20%を賄える年間電力量に相当します。送電ロスの削減は、温室効果ガスの抑制、空調用電力の確保、発電設備の負荷軽減といった三方良しの解決策と言えるでしょう。## 「高温超電導」実現化への期待すでにその方法は研究されて久しいものがあります。究極的には「高温超電導」の開発でしょう。絶対零度に近い超低温下で電気抵抗が消失する超電導状態が発生することは100年以上前に発見されており、これを常温(超低温と比較すると「高温」に相当します)に近い環境下で実現すれば送電ロスを解消することができるという考えです。1986年に液体窒素温度(零下200度前後)で超電導状態となる化合物が発見されて一躍注目を集め、2020年以降は高圧下という制限付きながら室温超電導の実現に向けて研究が進んでいるようです。まだまだ実用化には壁があることは否めませんが、酷暑対策という「必要性」が切迫する中、送電ロス解消に向けての開発は加速するのではないかと期待します。## 日本の送電技術はすでに高水準、世界展開の余地あり高温超電導の実現まで至らずとも、既存の送電技術の進展はより現実的な期待が持てると考えます。もちろん、新興国では送電ロス率が10%を超えるケースが少なくない中、既に日本の送電技術は米国や欧州と並んでかなり高い水準にあり、改善余地は限定的と捉えることもできます。しかし、これは世界に日本の技術を提供できる潜在市場が広く存在しているということでもあるはずです。それはビジネスに留まらず、地球環境問題の緩和にも繋がるアクションともなるでしょう。世界の平均送電ロス率という統計がないのは残念ですが、それが数ポイント低下するだけで相当なエネルギー効率の改善や地球環境対策になるだろうことは想像に難くありません。今後、特に超高圧送電技術など、日本が得意とする技術には追い風が吹いてくるのではないかと予想します。また、国内の送電設備についても、発電能力に余裕がどんどんなくなってきている状況では、さらなる効率の改善は不可欠でしょう。現状からさらに送電ロス率を引下げていくには送電線、変圧器などをトータルで制御するもう一段高い技術が重要になってくるはずです。これらもまた、海外に日本の技術を展開していくうえで、強い競争力となるのではないでしょうか。## 電気工事、電線、変圧器…押さえておきたい送電関連銘柄関連銘柄として時価総額1000億円以上の企業をリストアップすると、電気工事の領域ではきんでん(1944)、関電工(1942)などが、電線では古河電気工業(5801)、住友電気工業(5802)、フジクラ(5803)、SWCC(5805)が、変圧器関連では三菱電機(6503)、日立製作所(6501)などが挙げられるでしょう。特に電線メーカー4社は超電導技術でも研究を進めていることで知られています。これらは旬なテーマではありませんが、いずれ注目されるであろうテーマとして、ぜひ記憶に留めておいていただきたいところです。
【日本株】「送電ロス削減」が電力供給と環境問題解決のカギ 世界に広がる潜在市場 | 市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
日経平均は対米関税交渉決着のニュースをきっかけに弾みがついた展開となり、一時は史上最高値更新が視野に入る水準まで上昇しました。7月から「音楽が鳴っているうちはダンスを楽しむべきだが、宴の終わりには後始末が待っている」とも指摘していましたが、まだ「音楽は鳴っている」ということなのでしょう。実際、与党敗北となった参院選の結果を受けて、今後は積極財政政策の取り込みや円安などに繋がる政治体制の枠組み変更の可能性も出てきました。これらはむしろ期待値の高まりに繋がるものとも考えます。
足元では景気の不透明感は強く、企業の第1四半期決算も期待を超えるものではない状況です。これから相次ぐ第1四半期決算では、慎重な見方が多く示されるのではないでしょうか。しかし、これらはすでに予想されていたことであり、ある程度は悪材料として株価に織り込まれてきているのではないか、とも受け止めます。むしろ株式市場は、さらにその先を見始めている感があります。8月1日に発表された米雇用統計悪化は懸念材料ですが、株式市場も狼狽売りが続くことはなく、むしろ腰の強さを見せたと受け止めています。宴の後始末への準備を怠るべきではありませんが、そのタイミングはまだ先という見方を継続したいところです。
猛暑、AI、データセンター、電力消費は増加の一途
さて、今回は「電力の送電関連」をテーマに取り上げてみましょう。2025年の夏も暑い日々が続いています。先日は兵庫県で国内観測史上最高となる摂氏41.2度が記録されるなど、まさに「殺人的な暑さ」と言えるでしょう。命の危険を回避すべく、日中は家庭でもオフィスでも冷房が欠かせなくなっています。
しかし、それによって電力消費がさらに増加し、それに対応するための発電増がさらに温室効果ガスの排出増に繋がる、という悪循環にどんどん入っていっているようにも思えてしまいます。猛暑の原因を温室効果ガスのみと決めつけるのは早計ですが、一因であろうことは衆目の一致するところでしょう。
加えて、データセンターの相次ぐ建設やAIオペレーションの増加など、使用電力を飛躍的に増加させる要因には事欠きません。この悪循環を断ち切るため、温室効果ガス排出増に繋がる発電の増強を回避抑制しながら電力供給を引上げる、という「夢のような方法」が遠からず株式市場で注目されると予想します。まだそこまで議論は盛り上がっていませんが、だからこそ、今のうちに関連銘柄には注目しておきたいと考えました。
送電ロスの削減は三方良しの解決策
では、そもそもそんな「夢のような方法」はあるのでしょうか。実はあるのです。ご存知の方も多いと思いますが、電力は発電所で作られた後、家庭や工場などの最終消費地まで送電される過程で、電気抵抗の結果、少なからぬ電力が失われています。この送電ロス率は現在5%程度と試算されていますが、このロス率を引き下げることができれば、発電量を変えることなく、家庭や工場で使える電力が増えるという理想的な状況が実現します。
なお、5%のロス率はわずかのように見えるかもしれませんが、失われている電力は年間約458億キロワットもあり、これはおよそ国内世帯数の10~20%を賄える年間電力量に相当します。送電ロスの削減は、温室効果ガスの抑制、空調用電力の確保、発電設備の負荷軽減といった三方良しの解決策と言えるでしょう。
「高温超電導」実現化への期待
すでにその方法は研究されて久しいものがあります。究極的には「高温超電導」の開発でしょう。絶対零度に近い超低温下で電気抵抗が消失する超電導状態が発生することは100年以上前に発見されており、これを常温(超低温と比較すると「高温」に相当します)に近い環境下で実現すれば送電ロスを解消することができるという考えです。
1986年に液体窒素温度(零下200度前後)で超電導状態となる化合物が発見されて一躍注目を集め、2020年以降は高圧下という制限付きながら室温超電導の実現に向けて研究が進んでいるようです。
まだまだ実用化には壁があることは否めませんが、酷暑対策という「必要性」が切迫する中、送電ロス解消に向けての開発は加速するのではないかと期待します。
日本の送電技術はすでに高水準、世界展開の余地あり
高温超電導の実現まで至らずとも、既存の送電技術の進展はより現実的な期待が持てると考えます。もちろん、新興国では送電ロス率が10%を超えるケースが少なくない中、既に日本の送電技術は米国や欧州と並んでかなり高い水準にあり、改善余地は限定的と捉えることもできます。しかし、これは世界に日本の技術を提供できる潜在市場が広く存在しているということでもあるはずです。それはビジネスに留まらず、地球環境問題の緩和にも繋がるアクションともなるでしょう。世界の平均送電ロス率という統計がないのは残念ですが、それが数ポイント低下するだけで相当なエネルギー効率の改善や地球環境対策になるだろうことは想像に難くありません。
今後、特に超高圧送電技術など、日本が得意とする技術には追い風が吹いてくるのではないかと予想します。また、国内の送電設備についても、発電能力に余裕がどんどんなくなってきている状況では、さらなる効率の改善は不可欠でしょう。現状からさらに送電ロス率を引下げていくには送電線、変圧器などをトータルで制御するもう一段高い技術が重要になってくるはずです。これらもまた、海外に日本の技術を展開していくうえで、強い競争力となるのではないでしょうか。
電気工事、電線、変圧器…押さえておきたい送電関連銘柄
関連銘柄として時価総額1000億円以上の企業をリストアップすると、電気工事の領域ではきんでん(1944)、関電工(1942)などが、電線では古河電気工業(5801)、住友電気工業(5802)、フジクラ(5803)、SWCC(5805)が、変圧器関連では三菱電機(6503)、日立製作所(6501)などが挙げられるでしょう。特に電線メーカー4社は超電導技術でも研究を進めていることで知られています。
これらは旬なテーマではありませんが、いずれ注目されるであろうテーマとして、ぜひ記憶に留めておいていただきたいところです。